ひおき歴史街道 No.29 No.29

「千本楠」県指定天然記念物へ

日置市教育委員会社会教育課文化係

吹上の大汝牟遅(おおなむち)神社(日置市吹上町中原)の参道東側には、「千本楠(せんぼんぐす)」(日置市指定天然記念物)の名で知られるクスノキの群生地があります。令和5年3月20日、鹿児島県文化財保護審議会は、この「千本楠」を鹿児島県指定文化財(記念物:天然記念物)とするよう答申しました。

クスノキは、クスノキ科クスノキ属の常緑高木で、関東南部以西の本州や四国、九州・沖縄に分布し、日本最大を誇る「蒲生(かもう)のクス(大楠)」(姶良市・国指定特別天然記念物)をはじめ、樹齢を重ねるにつれて巨木化することで知られます。

「千本楠」の敷地には、樹高約22メートル、幹の直径約0.8~2.5メートルのクスノキが約20本群生しており、この光景から「千本楠」と呼び親しまれています。このようにクスノキの巨樹が1カ所に集中して群生することは珍しいとされます。

明治43年(1910)の日英博覧会で、当時の農商務省が「千本楠」のクスノキを標本として出品した際、その切株を調べたところ樹齢800年以上とされたようです。また、大正から昭和初期の専売局や営林局(現在の森林管理局)は、樹齢200~400年とも推定しています。

「千本楠」は、複数の太い横枝が地を這うように水平に伸びた姿も特徴的です。「シャボン玉」や「七つの子」などの作詞で知られる明治後期から昭和期の詩人 野口雨情(1882~1945)は、この光景を見て、「伊作(いざく)八幡千本楠は 横へ横へと寝てのびる」とんでいます。

千本楠(日置市吹上町中原字楠園)

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かって、「千本補」の敷地は、「楠屋敷」とも呼ばれていた。近代、その一部は国有林「楠園」とされ、大正5年(1916)には1日保護林制度により、名木保存学術考証のための保護林「千本楠」に設定され、準施業制限地および禁伐地となっていた。

戦後は、大次牟遅神社所有地と林野庁所管地であったが、昭和40年(1965)に旧吹上町指定文化財(記念物:天然記念物)に指定され、平成17年(2005)には、合併に伴い日置市指定文化財(記念物:天然記念物)となっていた。

参考図書・史料

『日英博覧会事務局事務報告』上・下巻(旧農商務省)、本多静六氏編『大日本老樹名木誌』(大日本山林会)、『鹿児島案内』(鹿児島案内編纂事務所)、『国有保護林概観 附・国有林内ノ銘木及伝説木概観』(農商務省山林局)、『樟脳要覧』(鹿児島地方専売局)、『熊本営林局管内経営要録』(熊本営林局)、農林省山林局編『国有林』上巻(大日本山林会)、『ふきあげ 10年のあゆみ』(旧吹上町)、『吹上郷土史』上・中・下巻・現代編・『吹上町の文化財と神話・伝説』・『吹上郷土誌』通史編1・3、資料編(旧吹上町教育委員会)、松江正彦氏・飯塚康雄氏「巨樹・老樹の保全対策事例集」『国土技術政策総合研究所資料』566(国土交通省国土技術政策総合研究所)、環境省自然環境局生物多様性センター「巨樹・巨木林データベース」HP